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つぼうちせんせいについて

坪内先生について

宮本 百合子

「文芸」1935(昭和10)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,580 字 · 4 页

青空文庫

それから、案の定私のところには生活のいろいろな大小の濤がおこり、十何年間に先生の宅へ上ったのは果して何度ぐらいであったろうか。

坪内先生の日本の文学における業績については私が敢て云うを俟たないものであるが、先生と私一箇との間に在った歴史的時間の内容は日本の明治大正史が語るよう極めて豊富であって、年齢の差以上のものがあったことはまことに興味あることであったと思う。

私にうかがい知られた先生の御気持の片鱗には私にわからなかったことがあり、私の過去数年の生活は、逆に先生にいかなる御感想を抱かせたであろうか。おめにかかれば、先生はああいう方であるからそつのない、鷹揚な、包括力ある言葉をかけて下さったであろうと思う。

坪内先生は非常に聰明な資質の先達者であった。正宗白鳥氏が先日、逍遙博士は文学の師であるばかりでなく生死に処する道を教えた方であるという感想を書いておられたが、私は坪内先生の一生をあるべきとこにあって完璧たらしめた先生の聰明、努力、達見、現実性を学ぶとすれば、それは私の時代のものにとっては必然的に白鳥氏の言葉にふくまれているものとは全く相異した形をとって、現実にはあらわれて来るであろうと面白く思うのである。