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うもれたにほん

埋もれた日本

和辻 哲郎

――キリシタン渡来文化前後における日本の思想的情況――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,399 字 · 43 页

青空文庫

この書のねらっている武士の理想は、道徳的にすぐれた人物となるということのほかにはないと思う。

一般に武士の理想を説く場合にも、正直・慈悲・智慧の理想が根柢となっていることは明らかであるが、しかしこの書全体にわたってなお一つの特徴が明白に現われているのを我々は指摘することができる。それは強烈な自敬の念である。前に多胡辰敬の家訓のなかから、おのれを卑下すればわが身の罰が当たるという言葉を引いたが、この心持ちはこの書では非常に強く説かれている。特に武道、男の道、武士道などを問題とする場合に顕著である。これらの言葉は本来は争闘の技術を言い現わしていたのであるが、そこに「心構え」が問題とされるようになると、明白に道徳的な意味に転化して来る。そうしてそこで中心的な地位を占めるのは、自敬の念なのである。おのれが臆病であることは、おのれ自身において許すことができぬ。だからおのれ自身のなかから、死を怖れぬ心構えが押し出されてくる。そういう人にとっておのれの面目が命よりも貴いのは、外聞に支配されるからではなく、自敬の念が要求するからなのである。同様に、おのれの意地ぎたなさや卑しさは、おのれ自身において許すことができぬ。