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うもれたにほん
埋もれた日本
和辻 哲郎
――キリシタン渡来文化前後における日本の思想的情況――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,399 字 · 43 页
彼の『草賊前後記』には、熊沢蕃山をかかる異学の徒としてあげている。蕃山は羅山よりもはるかに優れた学者であるが、羅山を重用する幕府の下においては、弾圧を受けざるを得なかったのである。
家康が儒教によって文教政策を立てようとしたことには、一つの見識が認められるでもあろう。しかしヨーロッパでシェークスピアやベーコンがその「近代的」な仕事を仕上げているちょうどその時期に、わざわざシナの古代の理想へ帰って行くという試みは、何と言っても時代錯誤のそしりをまぬかれないであろう。家康自身はかならずしも時代に逆行するつもりはなかったかもしれないが、彼の用いた羅山は明らかに保守的反動的な偏向によって日本人の自由な思索活動を妨げたのである。それが鎖国政策と時を同じくして起こったのであるから、日本人の思索活動にとっては、不幸は倍になったと言ってよかろう。当時の日本人の思索能力は、決して弱かったとはいえない。中江藤樹、熊沢蕃山、山鹿素行、伊藤仁斎、やや遅れて新井白石、荻生徂徠などの示しているところを見れば、それはむしろ非常に優秀である。これらの学者がもし広い眼界の中で自由にのびのびとした教養を受けることができたのであったら、十七世紀の日本の思想界は、十分ヨーロッパのそれに伍することができたであろう。