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うもれたにほん

埋もれた日本

和辻 哲郎

――キリシタン渡来文化前後における日本の思想的情況――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,399 字 · 43 页

青空文庫

この思想は正義と仁愛との相即を中核とする点において特徴のあるものであるが、しかし日本では古くから成立していたものであって、この時代に限った現象ではない。この時代として特に注目せらるべき点は、武家の権力政治が数世紀にわたって行なわれた後に、なおこのような王朝時代の政治理想が依然として説かれている点である。これは最初に言及したルネッサンスとしての意義にも関係しているであろう。同じ兼良が将軍義尚の母、すなわち義政夫人の日野富子のために書いた『小夜のねざめ』には、このことが一層明白に現われている。この書もこの後の時代に広く読まれたようであるが、その内容は人としての教養の準則を説いたものである。自然美を十分に味わうべきこと、文芸を心の糧とすべきこと、その文芸も『万葉集』、『源氏物語』のごとき古典に親しむべきこと、連歌や歌の判のことなども心得べきこと、などを説いた後に、実践の問題に立ち入って、人を見る明が何よりも大切であることを教えている。全然王朝の理想によって教養を作ろうとしたものである。

こういう点においても明らかなように、兼良は応永、永享の精神を代表したものであって、応仁以後の時代の精神には全然他人であると言ってよい。