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ぼちてんぼうてい
墓地展望亭
久生 十蘭
「モダン日本」1939(昭和14)年7月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 46,485 字 · 93 页
巴里の山の手に、ペール・ラシェーズという広い墓地があって、そのうしろの小高い岡の上に、≪Belle-vuedeTombeau≫という、一風変った名の喫茶店がある。
訳すと、「墓地展望亭」ということにでもなろうか。なるほど、そこの土壇の椅子に坐ると、居ながらにして、眼の下に墓地の全景を見渡すことが出来る。
当時、私は物理学校の勤勉な一学生で、行末、役にも立たぬ小説書きになろうなどとは夢想だにしなかったので、未来の物理学者を夢みながら、実直に学業をはげんでいた。
私が、繁々とその喫茶店の土壇に坐るようになったのは、その店が学校の通路にあったという都合ばかりではなく、「墓地展望亭」というその名の好尚の中に、なんとなく、物佗びた日本的な風趣のあることを感じ、やるせない郷愁をなぐさめるよすがにこの店を撰んだわけである。
そういう目的のためには、「墓地展望亭」はまず申し分のない場所だった。この店の客は、いずれも黒ずんだ服を着けた、物静かなひとたちばかりで、いま、花束を置いてきたばかりの墓に、もう一度名残りを惜しむためにここへやってくるのである。
悲しげな眼ざしを、絶えずそのほうへそよがせながら、しめやかに語り合う老人夫婦。