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ぼちてんぼうてい

墓地展望亭

久生 十蘭

「モダン日本」1939(昭和14)年7月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 46,485 字 · 93 页

青空文庫

竜太郎は、思わず卓の上に乗り出した。

「そのひとは、ブロンドですか」

「さよう。美しいブロンドです」

「美しい娘さんですか」

「私共では、いちばん美しい娘です。年齢は今年二十歳。……まだ独身です。愛人がいるという話もききませんから、どちらかと言えば、気立はいい方なのですが、何しろ、気まぐれで……」

「その娘さんは……」

「昨日、南仏から帰ってまいりました。奥に居りますが、なんなら……」

(あの夜の少女は、気紛れなマネキン!……)

竜太郎は、激情をおさえるために、眼を閉じた。

(たとえ、なんであろうと!)

ささやくような声で、いった。

「どうぞ、そのひとを、ここへ」

クンケルは、電話で何か命じた。……

間もなく、扉を叩く音がする。竜太郎は椅子から飛び上った。

扉が開いて、軽々とした足音がこちらへ近ずいて来る。竜太郎は、どうしても眼を開けてそちらを見ることが出来なかった。クンケルが、いった。

「まいりました」

竜太郎が、おそるおそる眼をひらく、卓の向う側に、どこか険のある、美しい顔だちの娘が立っていた。

竜太郎は、力の抜けたような声で、いった。

「このひとではありません」