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ぼちてんぼうてい

墓地展望亭

久生 十蘭

「モダン日本」1939(昭和14)年7月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 46,485 字 · 93 页

青空文庫

少女の足下で胸を射貫かれて死んだら、明日死ぬと誓ったこともはたされるわけだし、虚偽だらけなじぶんの半生の最後に、ただ一度、真実の朱点を打って死にたいという望みもかなうわけである。そして、そこに高く美しい心情の完成がある。じぶんの人生に於ける最後の大祝宴。心の戴冠式だ。

「戴冠式の馬車に向って、まっ直ぐに歩いて行こう。二つの戴冠式の合歓。……習俗の弾丸がおれの胸を射貫き、おそらく、五歩とは進ませまいが、しかし、おれの精神の飛躍は阻むことは出来ない。おれの肉体はぬかるみの舗石の上へ叩きつけられても、おれの精神は、一挙に無辺際の光明世界へ飛翔する。おれは、完成されて、死ぬ」

八

汽車が停って、僅かばかりの人が降りて行った。

窓をおし開けて見ると、昇降場の磨硝子の円蓋には水蒸気が白くたち罩め、その天井の高いところから、絶えず滴がたれ落ちていた。大気は湿って、寒かった。竜太郎は、思わず、身慄いした。

昇降場の電灯は、なぜか、ほとんど全部消灯され、ところどころに、一つ二つ点っているのが、霧の中でぼんやりした光暈をかいていた。線路も、跨橋も、指示標も、給水槽も朦朧たる霧の面をつけ、一種、陰険なようすで、佇んでいた。