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ぼちてんぼうてい

墓地展望亭

久生 十蘭

「モダン日本」1939(昭和14)年7月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 46,485 字 · 93 页

青空文庫

「今度の主要な用件は、リストリアの文部次官に会うことなのですが……」

士官は、紹介状を手にとって、仔細に眺めはじめた。紹介状には、学士院会員ギュスタフ・ダンピエールと文部参事官ポール・ジャルウの二人の名前になっていた。

士官の表情のなかから、ふと、辛辣な色が消えた。

「よろしい。滞在日数は?」

「いまのところ、まだ未定です」

「毎朝陸軍司令部へ出頭して査証を受けて下さい」

竜太郎は、車室へかえった。汽車はゆるゆると動き出した。

陸軍司令部……。ただならぬ感情が、じかに、胸にせまった。

(いったい何が起ったんだろう? )

※(「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1-91-26)たけたエレアーナ王女が、チラと瞼の裏をよぎった。

列車は、短い隧道をいくつもくぐりぬけ、大きな停車場に走り込んだ。

マナイール!

立ち上りかけて、竜太郎は、よろめいた。気の遠くなるような一瞬だった。

停車場の前の広場は、雨気をおびた雲の下で、黒々としずまりかえっていた。一人の人影もなかった。

ぼんやりとした遠近図をかく家並の線。どの窓も、みな閉され、ちらとも灯火が洩れなかった。この首府は、喪に服しているような、深い沈黙のなかに沈み込んでいた。