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ぼちてんぼうてい
墓地展望亭
久生 十蘭
「モダン日本」1939(昭和14)年7月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 46,485 字 · 93 页
そのうちに、竜太郎は、どうにも辛抱が出来かねる気持になってきたので、思い切ってそのそばに進みよると、こんふうに、声をかけた。
「たいへん、失礼ですが……」
婦人は、ビクッと神経的に肩をふるわせて急にこちらへふりかえると、まだ夢から醒めきらぬひとのようなぼんやりした表情で、竜太郎の顔を見あげた。その頬に、涙の痕が光っていた。ようやく二十歳になったくらいの若い娘だった。
なんという、たけた面ざしであろう。
ブロンドの柔毛のような髪が、すき透るような蒼白い顔のあたりに三鞭酒色の靄をかけ、その中に吸い込まれてしまうような、深みのある黒い大きな眼のうえで、長い睫毛が重そうにそよいでいる。
なににもまして、驚かれるのは、たとえようもない貴族的な美しい鼻と、均勢のとれた楕円形の顔の輪廓だった。近東の古い家系の中で稀れに見られる『美の始源』という、あの高貴な顔だちだった。ロオレンスでさえも、このような※(「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1-91-26)たけた面ざしは描き得なかったであろう。地上のものではなく、まさに、天上界に属すべき美であった。
竜太郎は、ほのかな星の光の下で、このようなたぐいない美しい少女の顔を眺めながら、心の中で、呟いた。