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ぼちてんぼうてい
墓地展望亭
久生 十蘭
「モダン日本」1939(昭和14)年7月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 46,485 字 · 93 页
竜太郎は、うすうす察していた。仰向けに寝たまま、慇懃に目礼をかえした。
「私は、志村竜太郎。……仏国文学士」
「短い御交際でした」
アウレスキーが、右手を差し出した。竜太郎は、しっかりと、それを握った。
「ほんとに、短い御交際でした」
長い廊下の端のほうに、ぼんやりとした払暁の乳白色が流れこんできた。どこか遠いところで、急調子に小太鼓を打つ音がしていた。
廊下の反対の側から、大勢の重々しい跫音が歩調をとりながら近づいてきた。
監房の扉がひき開けられ、二十四五の、美少年とでもいうべき、林檎のような赤い頬をした若い士官を先頭にして、一隊の兵士が入って来た。
監房の中の二十人は、二列縦隊に並ばされ、八人の兵士がその両側に附き添った。
この陰気な行列は、ところどころに水溜りのある暗道を粛々と歩いて行った。先頭の美少年の士官の歩調だけが、ひどく快活で、何かしら、それが、滑稽に見えるのだった。
一同が引き出されたところは、広々とした砲台の営庭だった。正面に角面堡の高い壁がつづき、遠いその端に、糸杉の黒い列があった。
夜はまだすっかり明け切らず、薄い朝霧が、煙のように営庭の中に流れていた。