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だんのうらのおにび
壇ノ浦の鬼火
下村 千秋
「赤い鳥」赤い鳥社、1927(昭和2)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,170 字 · 15 页
するとこれはまた意外のことに、法師がただひとり、安徳天皇のみささぎの前にたん座して、われを忘れたように、一心ふらんに、びわを弾じ、壇ノ浦合戦の曲を吟じているのでありました。そうして、法師の左右には、数しれぬ青い灯、鬼火がめらめらと、もえていたのでありました。寺男は、こんなに多いさかんな鬼火を、生まれてはじめて見るのでありました。寺男は一時は声もでないほどにおどろきましたが、やっと、心をおちつけて、
「法一さん、法一さん、あなたは、なにかにばかされていますよ。しっかりしなさい。」
と、耳もとでいいました。
しかし、法師は、寺男のことばをききいれるどころか、ますます一心に、ますます高らかな声で、吟じつづけています。
「法一さん、法一さん、どうなされたんです。こんなところで、なんのまねをしているんです?」
すると、法師は怒ったように寺男を制して、
「しずかになさい。だまっていてくれ。高貴な方々の前だ、ご無礼にあたるぞ。」
寺男は、これには、あっけにとられるばかりでした。もう、しようがないので、寺男は力ずくで法師をひきたて、その手をしっかりにぎって、むりやりに、寺へひっぱってきました。