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だんのうらのおにび

壇ノ浦の鬼火

下村 千秋

「赤い鳥」赤い鳥社、1927(昭和2)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,170 字 · 15 页

青空文庫

ひとたび法師がびわをひきだし、その歌をうたいはじめると、なんともいえないあわれさ、悲しさがひびきわたり、鬼でさえも泣かずにはいられないほどでありました。

この法師は、だれひとり身よりもなく、また、ひどく貧乏でした。いかに、びわの名人とはいえ、そのころは、まだそれでくらしをたてるわけにはいきませんでした。すると、平家の墓のそばにあるあみだ寺の坊さんが、それをきいて、たいへん同情をし、またじぶんはびわも好きだったので、この法師をお寺へひきとり、くらしには、なに不自由のないようにしてやりました。法師はひじょうによろこびました。そして、しずかな夜などは、とくいの壇ノ浦合戦を歌っては坊さんをなぐさめていました。

それは春の宵でありました。坊さんは法事へいってるすでした。法師はじぶんの寝間の前の、えんがわへでて、好きなびわをひきながら、坊さんの帰りを待っていました。が、坊さんは夜がふけてもなかなか帰ってきませんでした。法師は見えない目を空にむけ、なんとはなし、もの思いにふけっていました。と、やがて裏門に近づく人の足音がして、だれか門をくぐると、裏庭を通って法師の方へ近づいて来ました。