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だんのうらのおにび
壇ノ浦の鬼火
下村 千秋
「赤い鳥」赤い鳥社、1927(昭和2)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,170 字 · 15 页
坊さんの足音にしては、すこしへんだと思いながら、耳をかたむけていると、とつぜん、ふとい声で、ちょうど武士が、けらいを呼ぶように、
「法一。」
と、よびかけました。法師はぎょっとして、すぐ返事もできずにいると、かさねて、さらにふとい声で、
「法一。」
「はい……わたしは、めくらでございます。およびになるのは、どなたでしょうか。」
法師は、やっとそう答えることができました。
「いや、おどろくにはおよばぬ。」
と、声の主は、すこしやさしい調子になり、
「わしは使いのものじゃ。わしのご主君は、それは高貴なお方ではあるが、多くの、りっぱなおともをおつれになり、いま赤間ガ関に、おとどまりになっていられる。さて、ご主君は、そのほうのびわの名声をおききになり、今夜はぜひ、そのほうの、とくいの壇ノ浦の一曲をきいて、むかしをしのぼうとされている。されば、これより、わしといっしょにおいでくだされたい。」
この当時は、武士のことばに、そうむやみにそむくわけにはいきませんでしたので、法一はなんとなく気味悪く思いながらも、びわをかかえて、その案内者に手をひかれて寺をでかけました。案内するひとの手は、まるで鉄のように、かたく冷たく、そして大またに、ずしりずしりと歩いていきます。