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へんなおとこ

変な男

豊島 与志雄

「中央公論」1923(大正12)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,508 字 · 81 页

青空文庫

少し変ってるけれど、ひょっとすると……あれで天才かも知れないわ。」

天才という言葉がすぐには腑に落ちかねて、辰代は眼を瞬いた。

「本当に今晩越してくるのでしょうか。」

「あんな人だから、屹度来るに違いないわ。」

「それなら掃除をしておかなければなりませんね。」

綺麗好きな辰代はすぐに二階の四畳半の掃除にかかった。先ず室を掃き出しておいて、押入や畳に一々雑巾をかけた。それが済むと、もう夕食の時間になっていた。

食事中に辰代はふと思い出して云った。

「電気会社へ行ってこなければなりませんね。」

「どうしてなの。」

「あの人が来て早々から、電気がなくては困るでしょうよ。」

「いやだ、お母さんは。電気はつけ放しじゃありませんか。」

「そうでしたかしら。」

それでも彼女は、二階へ上って見て来なければ安堵しなかった。

卒業したばかりの若い医学士で、二階の八畳を借りてる中村が、病院から帰って来て、和服にくつろいで、玄関の茶の間で煙草を吹かしてる時、そして、辰代が澄子に手伝わして、台所の後片付けをやってる時、大学生は引越して来た。布団の包みと柳行李を一つと白木の机、それだけの荷物をつんだ車の後から、一人でてくてく歩いて来た。