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へんなおとこ
変な男
豊島 与志雄
「中央公論」1923(大正12)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,508 字 · 81 页
」
「あら、そうかしら……。」
そして暫くたってから、いろいろ考えてみた上で、そうかも知れないと彼女は思った。と同時に、この新発見を友達に云い触らそうと思いついて、一人にこにこ笑いだした。そしてそれを教えてくれた今井のことを、夢想家だとしてしまった。
その夢想家の今井が、或る晩十一時頃、酒に酔って帰ってきた。丁度皆茶の間に集って、少し長くなって、雑談の種もつきて、ぼんやりしてる所だった。今井は酒臭い息を吐きながら、それでも足許は確かで、勢よくはいり込んできて、室の片隅に腰を下して、水を一杯ほしいと云い出した。辰代は喫驚した顔付で、台所へ水を汲みに立っていった。帰って来るといつもすぐ二階へ上ってしまう彼が、そして二階には水も湯もある筈なのに、その時に限って、皆の仲間入りをしたのも珍しかったし、また酒は嫌いだと云っていた彼が、酔ってるらしいのも珍しかった。然し水を汲んできて更に彼女が喫驚したことには、今井は立派な西洋菓子の箱を其処に差出して、皆で食べてくれと云った。
「今日はどうなさいましたの。」と彼女は尋ねた。
「一寸愉快なことがあったんです。」と云って今井はさも愉快そうに眼を輝かした。