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へんなおとこ
変な男
豊島 与志雄
「中央公論」1923(大正12)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,508 字 · 81 页
即死ですね。それから大騒ぎになって、その男は仲間の者から、すぐ病院へかつぎ込まれるし、警官はやって来るし、野次馬はたかるし、ごった返しましたが、どういうものか、警官は皆をカフェーの外に逐い出してしまいました。それを幸に、私達も外に出ました。証人にでも引張り出されちゃつまりませんからね。」
「おまけに、金も払わなくて済んだわけですね。」と中村は云った。
その言葉に、澄子は一寸微笑を洩らしたが、今井は不快そうに眉根を寄せた。そして暫く黙っていた後、宛も胸の鬱憤をでも晴らすような調子で、口早に云い出した。
「私は人間の頭蓋骨が、あんなに脆いものだとは思わなかったんです。所があれを見てから、空のビール瓶で打割られたのを見てから、変に興奮してしまいました。いつ自分の頭も打割ちれるか分らない、うっかりしてはいられない、とそんな気がしたんです。明かに殺意を以て頭を割られるのは構いませんが、偶然に割られるのは考えても堪りません。あの連中だって、前から遺恨があってのことではなく、また殺そうとか殺されるとかいうつもりでもなく、ただ偶然にああなったまでのことでしょう。それを考えると、何だか私はじっとしていられないような気持になってきます。