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へんなおとこ
変な男
豊島 与志雄
「中央公論」1923(大正12)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,508 字 · 81 页
「そして君は、」と彼は云っていた。「本気でここの室に落着くつもりですか、それとも、一時かりに越してくるつもりですか、どちらです?」
「なぜですか。」と相手は尋ねた。
「朝一食だけで、午と晩とは、自炊をするか他処で食べるかしなければならないし、そういう不便を忍んでまで、あの狭い四畳半に落付くというのは、特別な事情のある者ででもなければ、一時の気紛れに過ぎないでしょう。それとも君には、何か特別の事情があるんですか。」
「私はまだ借りるとも借りないとも云いやしません。」
「こちらでもまだ、貸すとも貸さないとも云ってやしません。ただその前に、君の意志をはっきり聞いておきたいんです。」
「一体あなたは、此処の家の方ですか。」
「いや……一寸知り合いの者です。」
「それじゃ、御主人は?」
「不在です。だから私が代りにお話してるんです。」
辰代は襖の影から一歩踏み出しかけたが、学生の言葉に喫驚して、また身体を引籠めてしまった。
「それではまた来ます。」と向うの男は云った。
「そして室はどうするんです?」
「考えてからにします。」
「其処で考えたらいいでしょう。何もむずかしいことではないんですから。