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へんなおとこ
変な男
豊島 与志雄
「中央公論」1923(大正12)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,508 字 · 81 页
私は感謝の念で一杯です。」そして彼はまた歯をくいしばった。「でも長くいては悪いことになりそうです。すぐに引越します。何もかも許して下さい。すぐに引越します。」
今井はぷつりと言葉を切って、一つ丁寧にお辞儀をして、慌しく二階に上っていった。
辰代はまじろぎもしないで、彼の言葉を聞いていたが、彼からお辞儀されると、やはり丁寧にお辞儀をした。その頭を挙げた時には、彼はもう二階の階段を二三段上りかけていた。彼女は一寸眼を見据えて、それから立上って、彼の後を追ってゆこうとした。その時、縁側の柱の影から、仔細の様子を窺っていた中村が、飛んで出て彼女を捉えた。
「お止しなさい。」
きつい調子でそう云われて、辰代は面喰ったように眼をきょろつかせた。そして何とも云わないで、奥の室に逃げ込んでいった。
暫くして、澄子がそっと覗いてみると、辰代は薄暗い電燈の下で箪笥にぐったりよりかかって、涙が頬に流れるのも自ら知らないらしく、寝間着の薄い襟に※(「臣+頁」、第4水準2-92-25)を埋めて、深く考えに沈み込んでいた。澄子は喫驚して、中村の所に戻ってきた。
「お母さんは、泣いてるのよ。