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へんなおとこ

変な男

豊島 与志雄

「中央公論」1923(大正12)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,508 字 · 81 页

青空文庫

」

「じゃあ借りません。」

「では破約しますね。」

「破約ですって……私はまだ借りると約束した覚えはありません。」

「そんならそれでいいです。お帰りなすって構いません。」

「そうですか。」

そして手荒く閉める格子の音が聞えたので、辰代は何ということもなしに、慌てて飛んで出た。学生は平気で振向いた。

「やあ、すっかり聞いていられたんですか。」

辰代は表の方を覗き見ながら云った。

「あなたあんなことを!」

「なあに構うもんですか。あんなあやふやな奴は駄目ですよ。借りるならどんなことがあっても借りる、借りないなら断じて借りない、という風にはっきりしていなければいけません。あんな意志の弱い煮えきらない者をおかれても、碌なことはありません。」

辰代は仕方なしに腰を下してみたが、それでも心が落付かなくて、また立上って奥の室へはいっていった。其処には澄子がくすくす笑っていた。それを此度は辰代の方が、台所へ引張っていった。

「何を笑ってるのですよ!……どうしましょう?」

「あの人にお室を貸したらいいじゃありませんか。」

「でもねえ、あんなでは……。」

「随分図々しい人だけれど、あの人のは、図々しさを通り越して滑稽だわ。