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へんじんでん
変人伝
佐々木 邦
「日の出」新潮社、1934(昭和9)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,178 字 · 21 页
父は怒ってしまった。
「おれはもう幸太郎さんとは附き合わない」
僕が某高等学校へ入ると間もなく、父はその所在地の女学校へ栄転した。父としては好い廻り合せだと思っていたが、実は天然自然に然うなったのではなかった。母が叔父に頼んだのだった。叔父の友人がその県の学務部長をしていたから、巧く計らって貰ったのだった。その夏、叔父が採集旅行の途中を立ち寄った時、父は頻りにお礼を言った。叔父は植物学が専門だ。誰も知らなかった苔を発見して、オーノコータリヤと学名をつけている。これで大野幸太郎が世界的に残る積りだ。
「道彦は折角高等学校へ入ったのに、何故学問をやらない?」
と叔父は窘めるような調子で訊いた。
「はあ?」
「同じことなら、学問をやったら宜いだろう」
「文科です。国文学をやるんですから学問でしょう」
「文学は学問じゃない。学問らしい系統をつけた常識だ」
「常識じゃないです。一種の学問です」
「一種というなら勘弁して置く。文学は人間の拵えた学問だ。そんなものよりも自然の拵えた学問をやって貰いたかった」
「植物学ですか?」
「うむ。お前が植物学をやってくれゝば、叔父さんの後継ぎにするんだけれど」