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へんじんでん
変人伝
佐々木 邦
「日の出」新潮社、1934(昭和9)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,178 字 · 21 页
「しかし今更仕方ありません」
「一年遊んで、理科へ受け直したら何うだ?」
「興味がないんです」
「馬鹿につける薬はない」
「おや/\」
と僕はもう返す言葉もなかった。
「国文学だって、学問でないことはないだろう」
と父が口を出した。国漢の先生だから、侮辱されたように感じて黙っていられなかったのである。素より譲歩する叔父でない。二人の間に議論が始まった。父も可なり一こくの方だから始末が悪い。母が間に入って、漸く双方の機嫌を直した。
「幸太郎さん、植物学よりも国文学よりも、もっと大切なことがありますよ」
と母が言った。母は姉だから、多少権威を持っている。
「何ですか?」
「結婚問題です」
「はゝあ」
「早く貰わなければ駄目ですよ。いつまでもウカ/\していたんじゃ大野家ってものが絶えてしまいますわ」
「僕はオーノコータリヤで満足します」
「何ういうこと? それは」
「大野家が続いても、ロクデナシが出れば却って物笑いになります。それよりもオーノコータリヤってものがあります。植物は決して悪いことをしません。のみならず、絶える心配のない奴ですから有難いです。大野家の芳名を世界的に永遠に伝えてくれます」