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なつとおきやま
夏遠き山
宮本 百合子
「大調和」1927(昭和2)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,736 字 · 8 页
南方に八溝連山が鮮やかに月明に照されつつ時々稲妻を放つ。その何か奇異な深夜の天象を、花は白く満開のまま、一輪も散らさず、見守っている。――
この花ばかりではない。第一には若葉のひろがりにしてもそうだ。この山名物のつつじにしてもそうだ。北方の春は短かく一時に夏景色になるわけなのに、この高原では、すべて徐々に、すべて反覆しつつ、追々夏になって来る。東京で桜が散った後は、もう一雨で初夏の香が街頭に満つが、ここでは、こうやって今日一日降りくらす、明日晴れる、翌日は又雨で、次の日晴れる――ああ、何か一種異様の愛着をもって自然が推移するのだ。それ故、一月近くいて見ると、ここを去るのが変にのこり惜しい。いつか四周の自然に暗示されて、何か見るべきものの終りを見ずに去るような感情さえ起させるのだ。こんなことも、××屋主人にとっての何と天恵であろう! この宿には一年以上滞在する客が珍しくないということだ。本当に、活動から遠のく不安さえ感じなかったら、この自然とともに根気よく、一年でも二年でも落付いていられるだろう。硫黄泉のききめばかりではない。××屋×太郎君が、楢木立の奥の温泉神社へ「報神恩」