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なつ
夏
寺田 寅彦
「大阪朝日新聞」1929(昭和4)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,046 字 · 13 页
メロンを作ってみたいと思う人が自分の畑の適否を相談し、栽培法の要領を教われれば軽便である。
もう少し実用を離れた知識でもわれわれは時に自分の畑違いの事で一通りのことを心得ておきたい場合がある。書物を読めばいいとしたところで第一どういう本を読んでいいのかそれが分らない。そういう場合にもし百貨店で買物の節に軽便安直な知識を購入出来れば工合がいい。たとえば相対性原理とはどんな事か、マルキシズムとは何か、バロック芸術とは何、ベースボールとは何、ジャズとは何、そういうことが望みのままに早分りがすれば甚だ便利であり、また時代に適応する所以であるかもしれない。
現代に隆盛を極めている各方面の通俗的な雑誌はこういう安価で軽便な皮相的な知識を汽車弁当のおかずのごとく詰め込んであるが、ただ自分のちょうど欲しいと思うものを自分の欲しい時に手にいれようとするには不便である。それには百貨店に私のこの提案が採用されると便利であろう。
これらの「知識の売子」にはそう大したえらい本当の学者は入用はないのみならず、かえって甚だ厄介でかつ不都合であろう。この選定はむしろ百貨店の支配人に一任すればよい。