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ゆうがおのもん
夕顔の門
吉川 英治
「婦人倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,956 字 · 29 页
とも云うのである。
だが――彼女はその命に従がえなかった。
星を見ていた……。
ここに居ない、遠くの人が思い出された。
そして現在の自分に、ほろほろと理由なく泣けて来る――
『まだ其処に居るかっ』
兵庫の声は、烈しくなった。
『もう年老いて、猟には使えぬ古鷹だが、年来、わしが餌飼いして来た鷹だ。それに人に馴れ過ぎているので、この家を離れれば、すぐ心ない童たちに捕まるか、猟師に撃ち殺されてしまうだろう。――余り暗くならぬうちに、早く見つけて来い』
『……御無理です』
『なに、なぜわしの吩咐けが無理か』
『女などに、鷹を捕まえて来いなどと仰っしゃっても』
『其方が逃がしたのではないか』
『逃がしたから、その咎を責めて、困らしてやろうというお考えですか』
『誰が、妻の困るのを見て嬉ぶものがあろうぞ。そなたも鷹匠の妻でないか、もう五、六年も朝夕わしのする事は見て手心も知っている筈。――今渡した鷹笛をふいて、彼方此方と、庭木の多い屋敷を歩いて居れば、きっと鷹が聞きつけて降りて来る』
『……そ、そんな、見ッともないことが』
『何が見ッともないのか』
『御自身で探していらっしゃれば、よいではございませぬか』