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よるのわかば

夜の若葉

宮本 百合子

「婦人朝日」1940(昭和15)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,072 字 · 24 页

青空文庫

先へ先へと小枝を放りながら最後の砂丘を犬と一緒に勢いよく駈けおりて、顔にかかる髪をはらいながらみると、さよ子の紫の姿と順助とが、ほんとにむこうの約束の防風よしずのところに見えた。桃子は来てよかったと思った。さよ子がこちらを見つけて手を挙げた。桃子も手をふって応え、だんだん近よると、順助が一ふき高く口笛を吹いた。まだら犬は背にうねりを打たせてかけて行く。

「おそかったわねえ」

さよ子が、そこへ坐って桃子にすぐいった。

「お待ちしたわ」

「御免なさい。その代り美味しいおやつが待ってるわ」

順助はまだら犬の前脚を片手で一束につかんでは角力のようなことをしているのであった。

「これ、お宅の犬?」

「御近所のなの」

煙草の煙が目に入るのをよけながら、なお順助は何ともいわず女連からは横向きの姿勢で犬と遊んでいる。その素振りからは桃子の直感にうつって来る何か苦しいものがある。今のさよ子が来たときより余計自分にものをいうようになっている。そのことも何か桃子に苦しかった。

二人が連れ立って芝生の端れに現われたとき、予感が全身を走ってそれは桃子を動揺させたのであったが、こうしてさよ子が自分の方へより向った面持でいるのを見ると、桃子はそれはやはり順助のために寂しく思わずにいられない気がするのであった。