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よるのわかば
夜の若葉
宮本 百合子
「婦人朝日」1940(昭和15)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,072 字 · 24 页
享楽的になっているとか無理想になって来ているとかいうけれどそれは一部さ。いつの時代だって、そうなる者はいるんだ。そう喋りはしないけれど、もっと深く感じているいい奴が男のなかに案外いる。そういう男は現代に家庭の安定というような浅いところで妻を感じていやしないと思う。もっとむき出しに時代の運命の荒っぽさを見て、その苛烈な人間の運命への母性的なものとして妻を考えると思う」
順助の顔の上には、あのとき海岸で犬と遊んでいたときのような、それをもっと濃くしたような寥しさと熱情のいり混った表情が拡った。
「女のひとはどうもちがうらしいね……女のひとはこの頃いわば日常的にますます安定に執着して来ているんじゃないかな。男のそういうこころと、逆に行ってる……」
この間うちからのさよ子と順助とのすべてのいきさつが桃子の心の中ではだんだんと肯けて来るのであった。
「時代の不幸なんて、妙なところにあるね」
桃子は、海岸の家へ行った晩、母の多代子が珍らしいこんなさし向いの折にという風で切り出した言葉を思い出した。それは、この前伯母が来たとき、桃ちゃんも、そろそろお家にいらっしゃるようにしなくてはね、どうしても近ごろは、ああやっていらっしゃると御縁が遠くなり勝ちですからね、といったことを、自分も賛成の意見として話したのであった。