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よるのくつ
夜の靴
横光 利一
――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页
事情や娘の素質をあれこれと話し合っている。ところが、幸運な花嫁になろうとしている娘の方は、どうも私とどこかで縁のありそうな気配が立ち籠って来始め、思わず私も他人事ならず胸のときめきを覚えるようになった。そのときのことを私は同じく鶴岡育ちの妻に話して云った。
「おい、その嫁になる娘の一人というのは、誰だと思う。例の、そら、お前の結婚する筈になっていた船問屋の、あの人物の娘だ。僕は知らぬ素振りでいたがね。」
妻はさも無関心らしく、「あら、そう。」と云う。これも知らぬ素ぶりだ。しかし、私には、もし私がその船問屋だったら、ほんの些細なことからそうならなかったまでのことなのだが、自分の娘が第一候補の矢を立てられているのと同じ場であった。興味の起らぬ筈はない、私の妻がかつてはその船問屋から第一候補の矢を立てられて逃げたのである。そして、今、私はその男の娘を見立てようとしている稀な情景だ。
「まア、あの娘なら満点だ。親父はちょっと自慢しいで何んだが、娘はなかなか立派だ。」
と、こんな話を中に立った多介屋主人が一昨日青年に話していたのを思い出し、私はそれもその通りに妻に話してみた。