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よるのくつ

夜の靴

横光 利一

――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页

青空文庫

座談会に集った人たちは二三十人で、私は昨夜考えて来た田園都市と文化人と題し、重苦しいテーマ二十ばかりを出して概略を述べてみた。

「私たちの階級では、諦めということが何よりの訓練とされておりまして。」と、こう云った婦人が一人あった。私の階級とはどのような階級か私には分らなかったが、人人が帰った後でその婦人は、この地方の旧大名の夫人だと判明した。その後で、またこの地方の大地主三人がしきりに小作人問題で討論していた。ここの地主階級では諦めの訓練が不足しているようだと、ふとそんなことを私は思った。

鶴岡から私を案内して来てくれた佐々木剋嘉君とここで一泊して、翌日二人は四時の列車で帰る。余目まで来たとき、大きな五升入の醤油樽を背負っている佐々木君が、

「これをどうして水沢まで持って帰られますか。」と訊ねた。

「その樽は私のですか。」

「そうです。井上君があなたにと云ってお土産にくれたものですよ。」

重い醤油を始終背負ってくれながら、長い間今まで黙っていてくれた佐々木君に私は恐縮した。この夜は、鶴岡の同君の所で厄介になり、二度の恐縮である。

十一月――日

一年を通じて十一月の路ほど悪い路はないと、私のいる村では云うが、まったくこの月の路は路ではない。