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よるのくつ
夜の靴
横光 利一
――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页
」と私は妻に訊ねた。
「一寸見ましたわ。」
「信用は出来そうか。」
「そうね。悪い人ではなさそうでしたね。でも、何んだか、そわそわばかりしていて、ちっとも落ちつきがないんですのよ。何んだってあんなに、そわそわばかりしてるんでしょうかしら。それが分らないんですの。」
「じゃ、人は善さそうなんだね。」
「ええ。そんな変なことしそうな人じゃありませんでしたわ。」
よし、会おう。明日もう一度来るという。そろそろ荷物の整理をし始めるよう私は妻に頼んだ。このような渡りに船のことを、むかしは仏が来たと人人は思ったものだが、そう思えば、明日この人に会うのが私には楽しみだ。私もこの地のようにだんだん鎌倉時代に戻っているのであろう。
十一月――日
十時に例の客が蓑を着て来た。私のこの仏は、三十過ぎのビリケン頭をした、眼の細く吊り上っている、気の弱そうな正直くさい童顔の男であった。大きな軍靴を穿いているところを見ると復員らしい。円顔で、おとなしい口もとが少し出ていて、疑いを抱かぬまめまめしい身動きは、なるほど、こんな仏像は奈良や京都の寺でよく私は見たことがある。炉に対いあっている間も、私に見詰められるのが辛そうな様子で、絶えず横を向いて話している。