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よるのくつ

夜の靴

横光 利一

――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页

青空文庫

「目下農家に行わせることは、ただ一つ、三度の米の食事を二度にして、中の一度だけ何か米より美味いものを作らせ、これを代用にする、そして、一食分だけの米を増やすことですが。」

技師にとっては、平野を隅から隅まで点検してみた結果の行い得られる緊急の処置は、これだけらしい口調だ。おそらくそうだろう。

「しかし、米に代る美味いものというと―――」

「まア、麦でしょうが。」

「しかし、それは米には敵わぬでしょう。」

「そうだと困るのですが。しかし、まア、それよりありませんから。」

「しかし、現在の状態で、麦にしたって、これより以上の収穫を上げるということは、出来るものでしょうかね。」

「出来ませんね。ですから、一ヵ村につき五町歩平均に新しく開墾させる計画をしております。そして、そこへ麦を植えさせます――」

「五町歩ならどこも可能なわけですか。」

「それは出来ます。」

具体的な実行案が出来ている以上は、もう中心の話題はこれで済んだことになる。その他の話題は――鹿爪らしく切り出せば、土地整理問題、耕作地の半分は地主の所有地であるこの村の小作状況、それに起って来る経済の問題。そして、これらが日本経済の枠の中から商工業に引摺られ当然に転換せられる世界経済の波の中での浮き沈み、ということなど、予想はどこまでも切りがない。