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よるのくつ
夜の靴
横光 利一
――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页
外へ出てから久左衛門の長男の所へ私は挨拶にまた行った。由良の老婆も裏口へ出ていた。私が別家の長男に表口から挨拶をしようとすると、裏口に私が皆と一緒にいると思ったらしい長男は裏へ廻った。外で見ている長男の嫁や老婆が表だ表だというと、今度は表へ廻ったらしい。しかし、そのときには私は裏口へ長男の廻っている様子を察してまた裏へ廻っていた。見ているものらには両方が分るので鼬鼠ごっこの二人を見て、あはあは笑いながら表だ裏だという。どちらが裏か表か分らず二人はますます困るばかりだった。
久左衛門は駅までのいつもの路を選ばず、山添いに釈迦堂の方の路を選んで歩いた。少し遠いが路はその方が良いそうだ。天作が毎朝暗いうちから白土を掘り出しに通う路で、また由良から老婆が通って来る路でもある。釈迦堂の下まで来たとき、久左衛門に下で待っていてもらって私一人釈迦堂へ参拝した。堂までの参道を登る石畳は長いが、この良い村を暫くの間私に与えられた好運を私は感謝したかった。
湿った杉枝の落ちている石畳に靴が鳴り谷間に響いた。もうあたりが暗く、正面の堂の閉った扉が隙間を一寸ほど開けている。