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よるのくつ
夜の靴
横光 利一
――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页
観音開きになった扉の厚い合せ目に下から手をかけて引いてみるのに、中から鍵が降りていてかたかた隙間が鳴るだけだった。私は閉ったままの扉の外から拝した。そして、少し戻って来たとき、今どき山中の怪しげな私の靴音を聞いたものか、方丈の戸が開いて間へ和尚の半身が顕れた。
「どなたです。」
もう傍へよらねば分らぬ暗さの中で、私は黙って和尚の方へ近よって行った。
「ああ、あなたでしたか。どうぞどうぞ。」
愕いている和尚に、私は立ったままそこで別れの礼をのべて、下で人を待たせてある理由を云ってすぐ引き返した。山際に残った雪が杉の幹の間から白く見えている。その下の村道に、両足をきちんと揃えた久左衛門が前の姿勢を崩さずに立っていた。
うねうねした泥路を二人が行くうちまったく周囲は見えなくなって来た。彼は馬の蹄の跡を踏むようにして泥を渡って行った。どれも同じように見える刈田ばかり続いた闇夜の底を一本細い路が真直ぐに延びていて、その中ごろまで来たとき、久左衛門はぴたりと立ち停って田を見ていた。
「ここが自宅の田だ。」という。
「この真暗な中でよく分りますね。」とそう私が云うと、刈り株の切り口で分るものだという。