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よるのくつ
夜の靴
横光 利一
――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页
まことに夢声の芸の洒脱さは、破れた日本の滴りのようなものである。
九月――日
初めて西瓜を割る。今年は例年よりも二十日気候が遅れているとのことだ。久左衛門は、毎朝九時ごろになると必ず私に会いにやって来る。何の用もない、ただ遊びに来るだけだ。私は東京にいても、この朝の時間を潰されることほど苦しいことはない。それもこの老人が現れると、定って十二時まで動かない。私は一番自分にとって苦痛なことを、ここでは忍耐しているのだ。私は人が朝来たときは、その日一日死んだつもりになるのが習慣だったが、ここではそれが毎日だ。そこで、このごろ私は講習会に出席したつもりになって、この老人から農業について学ぶことにした。それにしても、これから以後ここにいる限り、この教授の出席が毎日続くのかと思うと溜息が出る。
「お困りなら今勉強中だといって、お断りしなさいよ。」と、妻は私のひそかな溜息を見て云った。
「僕は気が弱いんだね。どうも、それだけは云いかねるよ。あのにこにこした顔を見ちゃ、ひとつこの爺さんに殺されてやれ、と思うから不思議だ。お前断ってくれ。」
「じゃ、今度見えたら云いますわ。