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よるのくつ

夜の靴

横光 利一

――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页

青空文庫

「もうじきに共産主義になるそうじゃ、そうなれば面白いぞ。」

と、こういう声もときどき、誰か分らぬながら、この火の傍から聞えて来る。

久左衛門の家へ集るものは、自作組で上流派だ。この家は酒の配給所をもかねているから、集る炉の中の火の色も、燃え方が参右衛門の家のとは違っている。ここは酒あり米ありの城砦だ。今は久左衛門の物小舎は、この上流組からも狙われているのである。酔い声が少しでもここから洩れて来ると、どこの炉端の鼻もすぐその方へひん曲る。

「ふん、どこへ匿してあるのかの。」

と、参右衛門の方の集りは、いら立たしげだ。私はよく雨天のこんな所を目撃したが、そのときの男たちの眼の色は、米のときとは少し違って狂的だ。

「あの調子だと、朝から続けて飲んどるのう。」と一人がいう。黙り込んで聴き耳を立てていてから、また一人が、「ようあるこったのう。」とぶつりという。

もううずうずしている別の一人が、自棄に茶ばかり飲んでいる傍で、参右衛門は、煙管を炉縁へ叩きつけてばかりいる。酔い声が少し高まって聞えると、彼の顔は苦味走って青くなり、額の下で吊り上った眼尻にやにが溜る。