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よるのくつ
夜の靴
横光 利一
――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页
そこを清江のように、久左衛門の商才を攻撃するのは、やはり伝来派の嫉妬と見ても良いわけで、ここにも、新興勢力の擡頭を抑える無言の蔑視が、労農という神聖な姿を通してさえ流れている。
一つの大事件がある。この村にとってのことだが、そうとばかりはいえないことだ。この村の釈迦堂に戒壇院という一室がある。これは近年建ったこの寺の別室で、檀家七十家の位牌ばかり並べる室だ。建築費は当然村から出したが、費用は一様ではない。そのため、各家の木牌を安置する場所を定めるのに、先祖の古い順序に随うというわけにはいかなくなった。意見は、各家の出費の額に応じて順位を定めねば落ちつかなくなり、入札式を採用して、各自の献納額を紙に書かせ、他人には分らぬよう厳封のまま納めることにした。村にとっては非常な大事件だ。先祖の位置が金銭で決定されることであるから、ひそかに、出すべき基底の額を相談し合う寄りあいが、あちこちで行われた。このときも久左衛門は、後のもつれを明察して、誰より真先きに、一人勝手に百円を納めた。村の一同は、まだごてごてと一円から十円の間を、上ったり下ったりしているときである。