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よるのくつ

夜の靴

横光 利一

――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页

青空文庫

一応は現在を考えてみるということ、いつも生活の実質は現在にあるのだから、何よりも今を見ることが一番だ。今は、農民と労働者は王侯のごときものである。これに対して頭の上るものはない。すでに現在がかくのごとく民主主義に徹底しているときはまたとなかったが、ただ今は、これに統一を与える精神がないだけだ。みな誰も一番探しているものは、米と精神だのに、これを紊しているのは金である。しかし、不思議なことに、米というものは、少し手に入ると、忽ち人はこれを忘れてしまうのが習慣だ。有っても無くてもどうでも良いものの一つの中で、長らく人間にとって一番どうでも良かったものは、米と神とだ。云い換えるなら、物と精神の二つの代表である。この二つを忘れて人間はどうなるか、というところまで来てみて、やっと米だけ、物だけが眼についた。今度は何んだって物さえあれば、追っかけ引っかけするうちに、物はなくなる。次ぎには精神。しかし、これだけはどこにあるのか今もって分らない。分らなくなると、一つの顔を悪いという。誰も彼もその一つの顔で血刀を拭こうとする。

九月――日

稲刈りがすすんでいる。海浜の村から老婆の利枝がやって来る。