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よるのくつ
夜の靴
横光 利一
――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页
無能な自分と一緒に生活したのが彼女の運のつきだ。向うも一人、こちらも一人でだんだん照れた表情がはっきりして来たとき、ちょうど木橋の上でばったり会った。
「そうだと思ったわ。ふふふ。」
風呂敷の端から南瓜の肌をはみ出させて妻が笑う。川の水が二人の足下を流れている。二十年も前のある日、まだ結婚もしていなかったときのこと、こんなことが一度あったようにふと思ったが、どちらも焔に追いまくられ、もうひどく疲れている二人になった。
九月――日
燐光のように鋭く黄色に光る黒猫の眼。人のいない部屋の蝿の群り飛ぶ中でひっそりと鳴る柱時計。翳ったり射したりする日光。格子の間から並べた南瓜の朱に射しこむ光線。風がぴたりと停まるたびに、炉にかかった薬鑵が妙に鳴り出しては沸いてくる。
村では、ある家の稲の早い田を共同で借り、稲刈を共同でして、自分の田の稲刈までの食い量に当てるため、今日からそこでとれた米の精米にかかっている。連日の雨で膝まで泥に没する稲刈だが、夜など精米所の電光の下では、凛凛たる物具つけた武士のように勇みたった農夫らの勢揃いだ。どっかへ夜討ちに出かける前刻のような凄じい沈黙で並んでいる。