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よるのくつ

夜の靴

横光 利一

――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页

青空文庫

稲の穂の垂れ曲った方向に風が吹かず、逆に吹きつけられたそのために、茎から折れ、以後の天候の良さも結実には役立つこと少い。全国的な不作と判明する。供出の命令がいまだに方向さえ明さずじっと沈黙している無気味さ。これに随って農家もしだいに沈黙を守って来た睨み合い、この間で、温泉場からの闇買いがどんな値で忍びよるか。触覚は繊細な震動をつづけている。表面鈍感さを装っているとはいえ、内外刻刻の多忙な変化に応じ、ひそかに沈黙のまま色を変えてゆきつつもあるようだ。

滅多に人のことを賞めないこの村で、誰からも賞められているものは、私のいる家の参右衛門の妻女の清江と、別家の久左衛門の長男の嫁とである。この二人は、私も見るたびに賞めてやりたくなって、妻と二人きりのときは、こっそりこの二人のことをどちらからともなく賞めている。清江は稲刈からちょっと帰って来るとその暇を見て、自分の長男の嫁の新しい藁蒲団を作りかえてやっている。実に手早い。

「おれの嫁のときは、姑から随分大切にされたでのう、自分の嫁も大切にせんとすまんでのう。」とこういう。

嫁にも嫁の伝統があるものだ。妻は私の傍へ来て、