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やこうちゅう

夜光虫

織田 作之助

「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页

青空文庫

を知った――それからのことだ。

それから……。

小沢は亀吉と別れて、宿へ帰った。

が、雪子は既に宿にいなかった。

「着物がなくちゃ外へ出られない筈だのに、一体どうして著物を手に入れたんだろう」

と、小沢は不思議に思う前に、まず、

「――あれほどおれの帰りを待ってるように、念を押したのに、どうして、おれに黙って出てしまったのだろう」

と、腹が立った。

いや、むしろ、寂しかった。

「こんなに、おれが著物のことで奔走しているのに……」

という、何かすかされた気持から来る寂しさだけではなかった。

待っていると思っていた雪子の顔が、見えないという寂しさだった。

一夜を共に明しただけで、こんなに親しみ、いや、なつかしさを感ずるとは、一体どうしたことだろう。

その一夜、雪子のからだには指一本触れなかったのに……。いや、むしろそれだからこそ、一層なつかしさがあるのではなかろうか。

取りかえしのつかぬ気持だった。といっても、

「こんなことなら、昨夜なぜ雪子に強く出なかったのか」

という、いやらしい未練ではなかった。

雪子という娘の身のまわりに漂っている何か痛々しい、暗い、寂しい翳への、一種のノスタルジアに似た気持が、「もしかしたら、もうあの娘に二度と会えないのではないか」