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やこうちゅう

夜光虫

織田 作之助

「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页

青空文庫

夜は次第に更けて行った。

いかにも深夜の警察署らしい、そのS署の玄関の往来を豹吉はしばらく新聞記者のような眼で観察していたが、やがて、いらいらした声で、

「いつまでも、こないしていても仕様がない」

と呟いた。

何か大事件が起って、警察署の全員が出動した――その隙をねらって、雪子を救い出すという虫の良い考えにも、もう頼っておれなかった。

豹吉はペッと唾を吐き出した。

「どうにでもなれ!」

唾と一緒にその言葉を吐き出すと、豹吉は玄関の階段を、固い姿勢で登って行った。

S署の玄関の石段を、固い姿勢で豹吉は登って行った――と、作者は書いたが、たしかに警察署の玄関へはいって行くことは、署員か御用商人か、新聞記者か、それとも警察の関係者以外にとっては、何か薄気味悪いものである。

脛に傷を持たなくても、やはりいい気持のものではない。

戦争中にくらべると、警察というものの持っている感じも、随分圭角がとれて来たし、まして、大阪の警察は例えば闇市場の取締り方一つくらべてみても、東京のそれよりもはるかにおとなしいというものの、それでもさすがに何か冷やりとした冷たさは、依然として、失われていない。