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やこうちゅう
夜光虫
織田 作之助
「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页
「…………」
豹吉も暫らくだまって、小沢を見つめていたが、やがて、投げやりのような微笑をふっと泛べると、
「仕様がない。癪やが、あんたのいう通りにする。あんたには負けたよ。――三十分ここで待っていてくれ。皆んなを連れて来る」
と、言いながら石段を降りて行こうとした。
「あ。君」
と、小沢が呼び停めようとすると、豹吉はふと振り向いて、
「心配しなはんな。逃げたりするもんか」
石段を降りると、豹吉はやがて梅田新道の方へ姿を消した。
そして半時間たった。
夜が沈み、小沢の心も重く沈んでいた。
その重い心の底を、五月の風がさっと冬の風のように吹き渡り、小沢は何か寒々とした想いで、S署の玄関に佇んでいたが、やがてひょいと顔をあげた途端、小沢ははっとした。
豹吉、お加代、亀吉、唖娘――その他中之島公園で見た青蛇団が一人残らず、風に吹かれて、風のように、小沢の眼の前に現れたのだ。
予期していたものの、豹吉がこんなに早く説得して連れて来たのを見ると、さすがに驚いた。
風のように現れた一同は、やがて石段を、氷のような石段を登ると、風のようにS署の中へ姿を消してしまった。