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やこうちゅう
夜光虫
織田 作之助
「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页
えへ、へ……」
そして、唖の娘の方を向いて、
「――おれも随分大勢の肌に針を入れてきたが、今日お前の背中にしてやった刺青ほど、会心の針はなかったんやぜ。誰に見せても恥かしゅうない刺青や。お前の背中は何万円出しても買えん背中やさかいな、口はものをいわんでも、背中にものをいわすような、一人前の姐御になりや」
と、くどくどといいきかせるようにいった。
「う、う、う……」
娘はただ奇声を発しただけだった。
「あはは……。そやった。言うても聴えんのやったな」
と、針助は苦笑すると、お加代に、
「――ほな、この子を頼んだぜ」
「いやよ」
お加代が言った時は、しかし針助はもう娘を残して一人でスタスタと歩き出していた……。
「ちょっと、ちょっと、困るわよ。あたし……」
兵古帯のお加代は針助のあとを、バタバタと追うて行って、
「――あんな子あたしに預けてどうするのさ。困るわよ。――ちょっと、針助さん!」
呼びとめようとしたが、しかし、針助はふり向きもせず、鴈治郎横丁から姿を消してしまった。
お加代は諦めて、唖娘の方へ戻って来た。
「…………」
唖の娘は、もう自分はお加代について行くよりほかにないと、きめてしまったように、ちょぼんと薄暗がりの中に立って、お加代が自分の所へ戻って来るのを待っていた。