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やこうちゅう

夜光虫

織田 作之助

「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页

青空文庫

だから、小沢が帰って来て、そのことをきかれるのが怖かったのだ。

それに一刻も早く宿を出たかった。

といって、しかし、著物なしでは外へ出られない。

思案に困って、ふと廊下へ出ると隣の部屋のドアがあいていて、女の著物が著物掛けに掛っているのが眼にはいった。

部屋の中をうかがうと、誰もいない、その著物の主は、べつの著物と著かえて外出しているのだろう。

ふと、魔がさした。

雪子はふらふらとその部屋にはいると、著物を盗んで、自分の部屋に帰って寝巻を脱ぐと、その著物を素早く身につけた。

そして、何くわぬ顔で、宿を出たが、間もなく宿ではその盗難に気がついて、警察へ届けた。

すぐ手配が行われ、雪子は著物の柄が目印になって、つかまったのである。……

雪子が阿倍野橋の宿屋で著物を盗んでつかまった――という、そんな事情は、もちろん豹吉は知らなかった。

だから、なぜ拘引されて行くのか、咄嗟に考えてみても判らなかった。

いや、考えてみる余裕もなかった。雪子がストリート・ガールだから検挙されたのかも知れない――と直感する余裕もなかった。

豹吉の頭に泛んだことは、

「可哀想に警察へ連れて行かれるのだ。