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やしゃのなげき

夜叉のなげき

宮本 百合子

「あらくれ」1937(昭和12)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,711 字 · 8 页

青空文庫

文学が、神或は馬琴流の善玉悪玉の通念に対して、一般人間性を主張した時代は、日本でも逍遙の「小説神髄」以来のことである。私たちのきょうの生活感情はそこから相当に遠く歩み出して来ている。「主従は三世」と云って、夫婦は二世、親子は一世と当時の社会を支配したものの便宜のために組立てられていた親子の愛の限界は、既に、どんな人間でも子の可愛くないものはないという一般常識にまで柵を破られて来ているのである。

更に文学は、この一般人間的感情の上に立ちつつ、現実の人生の姿として、或る親はそのわが子可愛ゆさの心持をあらゆる明暮の心づかいに表現して、親も子ともども互の愛に満喫し得ているのに、一方ではどうして親心としては同じ思いの或る親が、我が子を幼年労働に追い立てなければならないのか、という疑問をとりあげた。又、親子の愛というものの固定的な宗教的でさえある評価の観念に対して、ストリンドベリーのように現実の錯雑を個人の生活経験の範囲で能うかぎりの仮借なさでむいて示した作家もある。

これらの人道主義的な個人主義的なヒューマニティの理解の時代は、ヨーロッパ大戦の後、或る質的な飛躍と波瀾とを経て今日に到っている。