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よながひめとみみお
夜長姫と耳男
「新潮 第四九巻第六号」1952(昭和27)年6月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,604 字 · 56 页
ゴホービをあげたいから、着物をきかえておいで」
明るい無邪気な笑顔であった。オレの目にそれをのこしてヒメは去った。オレは侍女にみちびかれて入浴し、ヒメが与えた着物にきかえた。そして、奥の間へみちびかれた。
オレは恐怖のために、入浴中からウワの空であった。いよいよヒメに殺されるのだとオレは思った。
オレはヒメの無邪気な笑顔がどのようなものであるかを思い知ることができた。エナコがオレの耳を斬り落すのを眺めていたのもこの笑顔だし、オレの小屋の天井からぶらさがった無数の蛇を眺めていたのもこの笑顔だ。オレの耳を斬り落せとエナコに命じたのもこの笑顔であるが、エナコのクビをオレの斧で斬り落せと沙汰のでたのも、実はこの笑顔がそれを見たいと思ったからに相違ない。
あのとき、アナマロが早くここを逃げよとオレにすすめて、長者も内々オレがここから逃げることを望んでおられると言ったが、まさしく思い当る言葉である。この笑顔に対しては、長者も施す術がないのであろう。ムリもないとオレは思った。
人の祝う元日に、ためらう色もなくわが家の一隅に火をかけたこの笑顔は、地獄の火も怖れなければ、血の池も怖れることがなかろう。