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よながひめとみみお

夜長姫と耳男

坂口 安吾

「新潮 第四九巻第六号」1952(昭和27)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,604 字 · 56 页

青空文庫

オレも三年の間、数の知れない蛇を裂いて生き血をのみ死体を天井に逆吊りにしたが、オレが自分ですることだから怖ろしいとも異様とも思わなかった。

ヒメは蛇の生き血をのみ、蛇体を高楼に逆吊りにして、何をするつもりなのだろう。目的の善悪がどうあろうとも、高楼にのぼり、ためらう色もなくニッコリと蛇の生き血を飲みほすヒメはあまり無邪気で、怖ろしかった。

ヒメは三匹目の生き血までは一息に飲みほした。四匹目からは屋根や床上へまきちらした。

オレが袋の中の蛇をみんな裂いて吊るし終ると、ヒメは言った。

「もう一ッぺん山へ行って袋にいっぱい蛇をとってきてよ。陽のあるうちは、何べんもよ。この天井にいっぱい吊るすまでは、今日も、明日も、明後日も。早く」

もう一度だけ蛇とりに行ってくると、その日はもうたそがれてしまった。ヒメの笑顔には無念そうな翳がさした。吊るされた蛇と、吊るされていない空間とを、充ち足りたように、また無念げに、ヒメの笑顔はしばし高楼の天井を見上げて動かなかった。

「明日は朝早くから出かけてよ。何べんもね。そして、ドッサリとってちょうだい」

ヒメは心残りげに、たそがれの村を見下した。