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ゆめどのさつじんじけん

夢殿殺人事件

小栗 虫太郎

「改造」1934(昭和9)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,755 字 · 55 页

青空文庫

と云うのは、全くあり得ないような事だけれども、この女にはたしか、絶命するまで意識があったに違いないのだ。だから、もし解剖して、腺に急激な収縮を起すような毒物が証明されない日には、恐らく浄善は、その間人間最大の恐怖を味わっていた事になるだろうね。ねえ、薄気味悪い話じゃないか。痲痺した体で眼だけを※(「目+爭」、第3水準1-88-85)って、その眼で、自分の首に手が掛かるまでの、惨らしい光景を凝然と眺めていたんだからね」と更に屍体の眼球を擦ってみて、結論を述べた。

「見給え、水分が少しもない。そして、恰度木を擦っているようじゃないか。大体屍体の粘膜と云えば、死後に乾燥するのが通例だろう。だが、二時間やそこいらで斯んなに酷いのは、恐らく異例に属する事だぜ。それに、眼球の上に落ちた血滴が少しも散開していない。そうすると、涙腺が極度に収縮しているのが判るだろう。つまりその凡てが、異常な恐怖心理の産物であって、血管や腺の末管が、急激に緊縮してしまうからなんだ。然し、またそうかと云って、その間浄善が失神していたのでないと云う事は、痙攣の跡がない――と云う一事だけでも、瞭然たるものなんだよ」