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ゆめどのさつじんじけん

夢殿殺人事件

小栗 虫太郎

「改造」1934(昭和9)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,755 字 · 55 页

青空文庫

尚、盤得尼の云う所に依ると、始めから終りまで、結び目なしの継ぎ合せた一本ものだと云う事だったのである。然し、試みにその一つを、三階の突出床から、礼盤の前方にかけて張ってある紐に結び付けてみても、床から五寸余りも隙いてしまう。更に法水は、玉幡の裾の太い襞の部分を取り上げて、それを浄善の扼痕に当てがってみたが、形状が非常に酷似しているにも拘らず、太さも全長も、到底比較にならぬ程小さいのだった。法水は、他からもそれと判る失望の色を泛べて、それから悠ったりと室内を歩き始めたが、やがて火焔太鼓の背後の壁に、一つの孔を見付けて盤得尼に問うた。

「伝声管で御座います。礼盤の右手は浄善、左手の火焔太鼓に寄った方が推摩居士の座になって居りまして、つまり、推摩居士に現われる竜樹の御言葉を、書院の中にある管の端から聴くので御座います。今日は、それが普光尼の番で御座いました」とそれに次いで、盤得尼は左の通り事件発生当時の情況を語り始めた。

――推摩居士に兆候が現われたので、盤得尼と浄善が夢殿の中へ連れ込み、盤得尼は油時計に、零時の目盛まで油を充たして点火し、夢殿を出たのが零時五分。