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ゆめどのさつじんじけん

夢殿殺人事件

小栗 虫太郎

「改造」1934(昭和9)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,755 字 · 55 页

青空文庫

板の間を踏むような、ドウと云う音が二度ばかりして、その二度目の直後に、ブーンと唸るような音が聴こえたと云ったね。では、仮りにそれを、太鼓の両側の皮を、内側から強く引緊めて置いて、全然振動を、起させないようにしたのを打ったとしよう。そして、二度目にその緊縛が解けたとしたら、凹みの戻った振動でもって、恰度そう云うような唸りが起りはしないだろうかね。案の状、その思い付きからして火焔太鼓を調べて見ると、果して其処に、三つ針穴程の孔が明いていた。つまり、そのうちの二つは、皮の両側を引き緊めた糸の痕であって、またもう一つのには、二度目の撥で糸が切れ、両側とも旧の状態に戻った時に、その反動を利用する、簡単な針金製の弩機が差し込まれてあったのだよ」

そうして、浄善の死因に関する時間的な矛盾が一掃されてしまうと、法水は再び、盤得尼に云った。

「とにかく、その発見からだけでも、貴女に対する疑惑は稀薄になります。つまり、智凡が見たと云うのは、笙を吹いていた犯人の影と云う事になりますが、さてそうなると、浄善の屍体を動かした犯人が、その場は三階へ隠れたにしてもです。一体どうして、それから、あの場所を脱出したものか――問題は再び密室で行き詰まってしまうのですよ」