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ゆめどのさつじんじけん

夢殿殺人事件

小栗 虫太郎

「改造」1934(昭和9)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,755 字 · 55 页

青空文庫

そして、それを卓上に置き、続けた。

「もとより画中の孔雀が抜け出すと云う道理はないけれども、それが孔雀明王の出現と云えるのには他に理由がある。と云うのは、推摩居士の異様な歩行が始まったからなんだ。君は、ヒステリー痲痺患者の手足に刺戟を与えると、様々不思議な動作を演ずると云う事実を知っているだろう。然しその前に、所謂体重負担性断端――それを詳しく云うと、義足を要する肢のどの部分が、足蹠のように体重を負担するか、その点を是非知っていて貰いたいのだ。で、推摩居士にはそれが何処にあるかと云うと、現に義足を見れば判る通りで、腓骨の中央で切断されている擂木の端にはなく、却って、膝蓋骨の下の腓骨の最上部にある。そして、それ以下の擂木は、義足の中でブラブラ遊んでいるのだ。つまり、足蹠の作用をするものの所在が、非常に重大な点なのであって、無論犯人は、その部分に刺戟を与えたのだったよ。それは云う迄もなく、正気ならば、膝蓋骨を下につけて歩くに違いない。けれども、夢中裡の歩行では、永い間の習慣からして、体重をかけていた腓骨の最上部を床に触れ、それを足蹠の意識にした直立の感覚で歩くのが当然なんだ。